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6月14日 万緑 … 緑陰 ・ 校長閑話

 

万 緑 の 中 や 吾 子 の 歯 生 え 初 む る

 

 中村草田男の有名な俳句です。万緑とは、野や山など生い茂る草木が緑に覆われた状態を言います。時候の挨拶でも「万緑の候」などと使われています。俳句の意味は、「野山は夏も進み、草木たちは生い茂り、辺りは一面の緑に覆われている。そんな中、わが子には白い歯が生えはじめてきたことだ」となります。季語は「万緑」で夏の季語になります。万緑の緑と生えはじめた白い歯、万の緑と一本の歯の白、生い茂る緑の鮮やかで、のびのびとした生命力とまだか弱い存在である赤子の健やかな成長など、色彩や存在感の対比が含まれたなかで、赤子の成長や未来を感じさせるわが子への深い愛情が、柔らかい言葉の使い方や中間切れの「や」など、飾らず、巧みに表現されています。また、「万緑」という季語は、草田男がこの句ではじめて用いたとも言われ、中国・北宋の文人で、王安石(おうあんせき)が作った詠柘榴詩(えいせきりゅうし)の中に「万緑叢中紅一点」という詩句あり、そこからの引用とも言われています。そしてこの詩句は「紅一点」の由来とも言われています。

 この句は、昭和14年(1939年)に詠まれたもので、「火の鳥」という句集に収録されています。翌年、「萬緑」という句集が刊行され、そののちに、俳句雑誌「萬緑」が発刊されることになります。草田男にとって「万緑」という言葉は、かけがえのない存在となり、昭和58年(1983年)、亡くなる82歳まで俳句雑誌「萬緑」の主宰をつとめました。

 遊行寺の四十八段を上がると、大銀杏がありますが、汗をかいた身体を少し休めるには丁度いい、「お陰さま」になります。生い茂った木々は憩いの日陰を用意してくれます。この日陰のことを「緑陰」といいます。卒業生の俳句に、

 

       列車今 大緑陰の 駅に入る     弘志

 

そして、私の昔の句

 

       黒牛の 胴が緑陰 より出づる     健

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